熱中症は屋内でも起こる
猛暑が続く中、熱中症はどこでも起こり得る身近な危険です。「熱中症は屋外で起こるもの」と思われがちですが、実際には屋内でも多く発生しています。また、熱中症は重症化すると命に関わることもあり、2024年には職場での熱中症による死傷者数が1,257人とそれまでで最多を記録し、うち31人が亡くなっています。こうした状況から、企業としても熱中症対策に万全を期す必要性が高まっています。
熱中症の症状と重症度
軽症ではめまいや立ちくらみ、筋肉の痛み(こむら返り)などが現れ、現場での応急対応も可能とされます。中等症になると頭痛、吐き気、倦怠感や集中力や判断力の低下などをきたすこともあり、医療機関での診察が必要になります。さらに重症になると、意識障害、手足のけいれん、運動障害、高体温などの症状を認め救急搬送が必要です(医学的にはより細かく1〜4度に分類されますが、本コラムでは概要を整理しました)。
熱中症を予防するポイント
特に以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 暑さを避ける: 屋内ではエアコンや扇風機を適切に使い涼しい環境で過ごしましょう。直射日光を防ぐために遮光カーテンやすだれを利用したり、風通しを良くする工夫も有効です。屋外では帽子や日傘を活用し、日陰を選んで行動します。服装も通気性のよい素材を選び、必要に応じてタオルを巻いた保冷剤や冷感タオルで首筋や脇の下などを冷やして体に熱を溜めないようにしましょう。炎天下での無理な作業や外出は避け、適度に休憩を挟むことも大切です。
- こまめに水分補給: 喉の渇きを感じていなくても定期的に水分をとりましょう。大量に汗をかくときは塩分も失われるため、経口補水液やスポーツドリンクなど塩分を含む飲料を適度に摂取することが効果的です。特に屋外作業や運動時は、開始前に水分を摂っておくことも予防につながります。室内でも油断せず、常に飲み物を手元に置いて少しずつ補給する習慣をつけてください。
- 体調管理: 普段からバランスのよい食事と十分な睡眠を心がけ、暑さに負けない丈夫な体づくりを続けましょう。前の晩の深酒や寝不足、朝食抜きなどは熱中症を招きやすくなります。朝ごはんを抜くと体内の水分やエネルギーが不足し、暑さに対する身体の抵抗力が落ちてしまいます。夏場は特に生活リズムを整え、無理なダイエットや過度な飲酒は控えて、体調を万全に保つことが予防の基本です。
「熱中症かな?」と思ったときの応急処置
もし周囲の人に熱中症らしき症状が出たら、素早く対応しましょう。重症化を防ぐために初期対応のポイントを押さえておきます。
- 意識の確認: まず声をかけ、反応を確かめます。呼びかけに反応しなかったり受け答えがおかしい場合は早急に救急要請が必要になります。
- 涼しい場所に移動し体を冷やす: 日陰やクーラーの効いた室内などの涼しい場所に運びましょう。衣服を緩め、身体から熱を逃がします。氷嚢や保冷剤をタオルで包んで、太い血管のある首、脇の下、太腿の付け根(鼠蹊部)に当てて冷やします。濡れタオルで身体を拭いて扇ぐなど、できるだけ早く体温を下げる工夫をします。意識がある場合は同様に涼しい場所に移動して体を冷やします。
- 水分・塩分の補給: 自力で水が飲めない・吐き気がある場合は、医療機関への搬送が必要です。意識がはっきりして自力で飲めるようなら、経口補水液(または水に少量の食塩を入れたもの)やスポーツドリンク等で水分補給します(ただし基礎疾患などにより塩分や糖分の摂取量の調整が必要になる可能性があります)。一気に飲ませるのではなく、ゆっくり少しずつ飲んでもらいましょう。
- 症状の経過観察と医療機関受診: 応急処置後は楽な姿勢で安静にさせ、付き添って様子を見ます。症状が改善しない場合は、医療機関の受診が必要です。なお、一時的に良くなっても、後からまた症状が出ることもあります。不安があれば医療機関で診察を受けてください。

職場における熱中症対策義務と実践ポイント
働く現場での熱中症リスクを減らすため、2025年6月より施行された労働安全衛生規則の改正省令により、特定の条件下で作業を行う事業者は、熱中症予防のための措置を講じることが義務づけられました。対象となるのは、事業場のWBGTが28℃以上(または気温31℃以上)で、1時間以上連続、または1日4時間超にわたる作業です。該当する職場では以下の対策が義務づけられています。なお、WBGTとは、気温に加えて、湿度、日射・輻射など周辺の熱環境を取り入れた指標で熱中症予防に有用です。
- 報告体制の整備: 作業中に労働者自身が熱中症の自覚症状を感じた場合や周囲の人が異変に気付いた場合に、すぐに所定の担当者へ連絡・報告できる体制を事前に定め、関係作業者に周知すること。
- 熱中症悪化防止のための手順作成: 作業者に熱中症の症状が出た際に重症化を防ぐための具体的な措置と手順を事業場ごとに定めて、関係作業者に周知すること。例えば「異常を認めたらただちに作業から離脱し安全な場所で休ませる」「冷却グッズで身体を冷やす」「必要に応じて速やかに医師の診察を受けさせる」「緊急搬送先(病院)や救急車の連絡先を用意しておく」等、一連の対応フローを決めておきます。
- 関係者への周知・教育: 上記①②の体制や手順について、現場の従業員に周知徹底し、必要な教育を行うことも求められます。
これらの義務に違反した場合、企業には6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則が科される可能性があります。
現場で実践すべき具体策は何か?
- 作業環境の「暑さ」を見える化: 携帯型WBGT計や温湿度計を用いて常に作業環境の暑さ指数を測定し、暑さに応じて必要時は休憩・水分補給を増やしたり、危険レベルであれば作業を中断する判断もできるようにしましょう。
- 作業計画の工夫: 炎天下での作業や重労働は、可能であれば気温の低い朝夕にシフトする、休憩回数を増やす、作業時間を短縮するなど検討しましょう。暑さに慣れていない時期には「暑熱順化」の期間を設け、段階的に作業量を増やしていくよう配慮します。休憩所には冷房や扇風機を設置し、冷たい飲み物や塩タブレットなどを用意して誰でも使えるように整備します。
- 作業服や保護具の見直し: 夏場には通気性の良い作業着やファン付きウェアの導入などで作業者の体感温度を下げる工夫をしましょう。
- 従業員の体調管理への配慮: 熱中症は体調が大きく影響します。朝の体調確認や声かけを行い、少しでも具合が悪い人がいたら無理をさせない職場の雰囲気づくりが大切です。現場で、気温・WBGTや休憩状況を管理したり、従業員から報告を受けたら迅速に対応措置を取れる体制を整えておくと安心です。
おわりに
熱中症対策は、一般社員から管理部門、経営層まで職場全体で取り組むべき重要課題です。日々の予防策(暑さを避ける・水分補給・体調管理)を徹底するとともに、必要時の応急処置を知っておくことが、一人ひとりの健康を守ります。そして職場では、法令で義務化された体制整備を実施し、現場で実践的な対策を講じることが求められます。十分な対策を行い、暑い季節を安全に乗り切りましょう。