産業医が必要になったとき、あるいは今の産業医との契約を見直したいとき、どこに相談し、何を確認して決めればよいのでしょうか。この記事では依頼先の違いを整理したうえで、人事担当者の方から伺うことのある「契約後の行き違い」をもとに、契約前の打ち合わせで確認しておきたい7つの点をまとめました。中央区日本橋を拠点に主に都内の事業場を担当する産業医の立場から書いています。
産業医が必要になるのはどんなときか
常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任義務があります。50人未満でも、面接指導や休職・復職への対応で産業医への相談が役立つ場面があります。
「常時50人以上」は事業場ごとに数える
産業医の選任義務は会社全体ではなく、本社・支店・工場といった事業場ごとに判断します。人数には正社員だけでなく、パート・アルバイトなど常態として使用している労働者を含めます。在宅勤務の従業員も、所属する事業場の人数に含めて数えます。50人以上となった日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ選任報告を行います。制度の詳細は「産業医とは」で解説しています。
50人未満でも産業医に相談したい場面
選任義務がない事業場でも、法令の要件に該当する長時間労働者への医師による面接指導、ストレスチェック実施後の高ストレス者への対応、健康診断の事後措置、休職中の従業員の復職に向けて就業上の配慮について意見を求めたいときなど、専門的な助言が必要になる場面があります。法令上の医師による面接指導は産業医に限らず医師が行えますが、職場の状況を踏まえた対応を継続して求めるなら、産業医に依頼する選択肢があります。なお、50人未満の事業場でのストレスチェックの実施は現時点では努力義務ですが、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、2028年4月1日から50人未満の事業場にも実施が義務づけられます。実施後の高ストレス者への医師による面接指導や集団分析の活用まで含めると、選任義務のない事業場でも産業医に相談する場面は今後さらに増えると考えられます。
探す前に整理しておく3点
問い合わせの前に、拠点と人数、依頼したい業務(職場巡視・衛生委員会・面談・健診事後措置・衛生講話など)、訪問とオンラインの割合の3点を整理しておくと、その後の話が早く進みます。細かい優先順位は、産業医との打ち合わせの中で決めていけます。
産業医の依頼先:主な3つの方法
依頼先は、医師会や近隣の医療機関、紹介会社、産業医事務所などとの直接契約の3つに大別できます。どの方法でも、担当予定の産業医と契約前にどの程度直接話せるかを確認することが大切です。
医師会・近隣の医療機関に相談する
地区の医師会に産業医を探す企業向けの窓口がある場合や、健康診断を依頼している医療機関に相談できる場合があります。紹介の可否や条件は地域や機関によって異なります。
紹介会社を通じて探す
産業医の紹介を専門とする会社を通じて探す方法で、複数の候補から選びたい場合や拠点が多い場合に使われます。紹介会社を通じて契約する場合は、産業医への報酬とは別に、紹介の手数料が設定されることや、月額費用の中に運営側の費用が含まれることがあります。健康管理サービスの一部として産業医が組み込まれ、サービス利用の間は継続的に費用が発生する契約形態もあります。契約の形態や費用の内訳は会社によって異なるため、月額に含まれる業務の範囲、担当する産業医が誰になるのか、交代の条件はどうかを含めて確認します。
産業医事務所・開業産業医と直接契約する
法人の産業医事務所や、個人で活動している産業医と直接契約する方法です。複数の産業医が在籍する事務所と、代表の産業医が自ら担当する事務所があります。どちらの場合も、実際に誰が担当するのか、担当者が不在のときの対応はどうなるのかを確認しておきます。
どの方法でも共通して確認すること
候補の幅を優先するなら紹介会社、健康診断との連携を重視するなら医療機関、初期の段階から担当する産業医と直接やり取りすることを重視するなら直接契約、という向き不向きはありますが、依頼先の種類にかかわらず、契約前に担当予定の産業医本人と、どの程度話す機会を持てるかは、最初の問い合わせの段階で確認しておくことをお勧めします。次の7項目は、その打ち合わせの場で確認するものです。
契約前に確認したい7つのこと
対応範囲、担当、日程、面談と意見の出し方、実施方法、契約時間と業務量、契約範囲と契約条件の7点を契約前の打ち合わせで確認しておくと、契約後の行き違いを防ぎやすくなります。
以下は、当事務所に産業医の変更や新規のご相談をいただく際に、人事担当者の方からお聞きすることのある内容を、個別の企業が特定されない形でまとめたものです。特定の依頼先や産業医に固有の話ではなく、どの依頼先を選ぶ場合にも当てはまる確認事項として読んでいただければと思います。いずれの項目も、産業医側だけで決まるものではなく、会社側の伝え方や契約条件の整え方によっても変わります。
1. 対応範囲:メンタル面とフィジカル面への対応
身体疾患についての相談には応じてもらえるがメンタルヘルスの相談には消極的、あるいはその逆に、メンタルヘルスの相談には応じてもらえるが身体面の相談は進めにくい、といった声を伺うことがあります。
産業医は、診断や治療を担う主治医とは役割が異なり、従業員の心身の健康状態と業務内容・職場環境との関係を踏まえて、就業の可否や必要な就業上の配慮について医学的な意見を述べる立場です。最終的な措置を決めるのは事業者ですが、その判断材料となる意見は、メンタル面についてもフィジカル面(身体面)についても必要になります。
メンタルヘルス不調への対応は、多くの企業で現実の課題になっています。業務による精神障害の労災支給決定件数は、2022年度の710件から2025年度には1,082件へと増加し、2年連続で1,000件を超えています(厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」)。一方で身体面の比重も小さくありません。定期健康診断で何らかの所見がある受診者の割合は全国で6割近くに達しており(2025年は59.68%)、厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」でも、高齢者の就労の増加などを背景に、疾病により通院しながら働く労働者の割合が年々上昇していると述べられています。
打ち合わせでは、自社で実際に起きている課題や、今後起こることが予想される課題を先に伝えたうえで、その対応について聞くのが現実的です。たとえばメンタル面と身体面のいずれにも不調者が出ている事業場であれば、それぞれについてこれまでどのような相談や対応に関わってきたか、必要に応じて主治医や専門医とどう連携するかを聞いてみてください。一方だけが詳しく語られる場合は、もう一方の進め方を具体的に確認しておくと安心です。
2. 担当:継続の考え方と、交代時の引き継ぎ
担当する産業医の変更は、契約期間中に一定程度起こりうるものです。理由は、産業医側の稼働状況の変化、会社側の体制や依頼内容の変化、双方が想定していた進め方の違いが後から分かる場合など様々です。同じ産業医が継続して担当することには、会社の事情や経緯を共有したまま対応できる利点がありますが、状況によっては交代が適切な場合もあります。
一方で、担当が短期間で変わり、そのたびに引き継ぎの負担が生じた、という声を伺うことがあります。スポットで面談を依頼している場合も、毎回産業医が変わると引き継ぎが必要になり、進め方も同じにはなりません。将来の交代を契約前に完全に見通すことは、どの依頼先でも難しいのが実際のところです。そのうえで確認できるのは、継続担当についての依頼先の考え方と、交代が生じた場合の運用です。契約書に交代時の取り決め(通知の時期、引き継ぎの進め方)があるか、担当の継続や交代について誰が窓口となってどのように説明するのかを聞いておきます。あわせて、契約前に担当予定の産業医と、業務内容や対応条件について直接認識を合わせる機会があるかも確認しておくと、契約後のミスマッチを減らせます。担当が続くかどうかは日程の合いやすさにも左右されることがあるため、次の3の日程調整は、契約の最終段階ではなくある程度早い段階で確認しておくことをお勧めします。
3. 日程:衛生委員会などの日程調整を無理なく行えるか
衛生委員会は、設置義務のある事業場では毎月1回以上の開催が必要です。その開催日と産業医の訪問可能日が合わず、調整に苦労したという声があります。打ち合わせでは、自社が開催しやすい曜日や時間帯を先に伝えたうえで、定期訪問の日程をどのように決めるか、追加の面談が必要になったときはどのくらいの期間で日程を確保できるかを確認します。産業医側にも稼働の上限があるため、「常に即日対応」を求めるのではなく、自社で日程を調整できる状況と産業医の提供条件が合うかを見る、という姿勢で確認するのが現実的です。
4. 面談と意見の出し方:従業員が話せる面談か、就業上の意見と理由を説明するか
面談を受けた複数の従業員から「一方的に話されて、こちらの状況を十分に話せなかった」という意見があった、という話を伺うことがあります。また、主治医の診断書の内容がそのまま会社への意見になり、産業医としての考えが見えにくかった、という会社の声もあります。
ここで確認したいのは、主治医と異なる意見を出すかどうかではありません。主治医は治療の観点から意見を述べ、産業医は業務内容や職場の状況を踏まえて就業上の意見を述べる、という役割の違いがあります。結論が主治医と同じになることは自然にあり得ます。大切なのは、その結論に至った理由が、職場の実態を踏まえて説明されるかどうかです。打ち合わせでは、復職に向けた面談の後、会社にどのような形で意見を伝えるか、その際に何を根拠として説明するかを聞いてみてください。なお、最終的に復職の可否や就業上の措置を決めるのは事業者であり、産業医はその判断材料となる意見を述べる立場です。休職・復職の場面での産業医と主治医、人事の役割分担は「メンタルヘルス不調への対応における連携」で詳しく説明しています。
5. 実施方法:訪問とオンラインをどう組み合わせるか
オンラインでの対応が難しい産業医だった、逆に追加の面談で訪問での対応を頼めなかった、という両方向の声を伺います。法令上、定期の職場巡視は実地で行う必要がありますが、面談や衛生委員会への出席には、一定の条件のもとでオンラインで実施できるものがあります。自社にとって、定期訪問のほかにオンラインで対応してほしい場面(在宅勤務者の面談、なるべく早めの相談が望ましい場合など)と、訪問してほしい場面(職場環境に関わる相談、対面が望ましい面談など)を分けて伝え、それぞれに対応できるかを確認します。なお、追加の面談は、オンラインであれば移動を伴わないため、訪問より日程を調整しやすい場合があります。訪問でもオンラインでもよい面談であれば、その旨を伝えておくと調整が進みやすくなります。
6. 契約時間と業務量:想定する業務が契約時間に収まるか
契約後に面談の件数や相談事項が増え、定期訪問の時間内に収まらなくなった、という経験を伺うことがあります。個々の対応にどれだけ時間がかかるかは内容によって異なり、契約前に見極めるのは難しいものです。一方で、依頼したい業務の全体量と契約時間の釣り合いは、契約前にある程度は調整できます。打ち合わせでは、想定する業務(巡視・衛生委員会・面談の見込み件数・健診事後措置など)を一通り伝えたうえで、その内容が契約時間に収まる見込みか、収まらなくなったときにどう相談するか(時間の追加、頻度の見直し、オンラインの活用など)を聞いておくと、契約後のすれ違いを減らせます。
7. 契約範囲と契約条件:何が含まれ、何が別料金か
衛生講話、追加の面談、外国籍従業員との英語での面談、健康経営に関する助言などを依頼したときに、対応に消極的だった、という声を伺うことがあります。産業医側にとって難しい内容である場合もありますが、契約時間や料金、準備期間の問題である場合もあります。月額に含まれる業務と別料金になる業務、追加対応を依頼する際の期限と方法、意見書などの文書作成の扱いを、契約前に確認しておきます。あわせて、契約期間、解約の予告期間、産業医の交代が必要になったときの手続きも確認しておくと、後から見直しが必要になった場合にも動きやすくなります。
見積もりと契約範囲の確認
産業医の費用は、対象となる人数、訪問の頻度と1回あたりの稼働時間、依頼する業務の範囲で決まります。金額の比較よりも、自社に必要な対応が契約に含まれているかを確認することが大切です。
費用を左右する3つの要素
費用の目安を左右するのは、事業場の人数、訪問の頻度と1回あたりの稼働時間、業務の範囲です。月額が同じでも、1回の訪問が1時間か2時間かで内容は大きく変わります。訪問頻度については、定期の職場巡視を毎月1回以上行うのが原則で、衛生管理者の巡視結果など法令で定める情報が毎月提供され、事業者の同意がある場合には、巡視を少なくとも2か月に1回とすることができます。訪問の頻度と時間は、必要な巡視を確保したうえで、面談などの業務量を踏まえて相談します。見積もりを比較するときは、月額の数字だけでなく、その中に含まれる訪問時間と業務、追加費用が発生する条件を並べて見ると、条件の違いが分かります。契約の相手が法人か産業医個人かによって契約書の形や支払いの扱いが変わることもあるため、契約書の当事者と支払い方法も確認しておきます。
選任義務と依頼内容に応じて契約の形を選ぶ
常時50人以上の事業場では、産業医を選任し、定期的な訪問を前提とした契約を結びます。選任義務のない事業場では、面接指導や意見書作成を1件ずつ依頼するスポット対応、休職・復職対応のように数か月にわたる案件を月額で伴走する形、定期訪問はせず必要なときに相談できる体制を確保する形など、必要な範囲に応じた契約が可能です。当事務所の契約の形は「事業内容(ご契約の形)」でご案内しています。
50人未満の事業場が使える公的支援と、民間との使い分け
常時50人未満の事業場は、地域産業保健センターで健康相談や面接指導などの支援を無料で受けられます。事前予約制で回数に上限があるため、継続的な関与が必要なときは民間の産業医との使い分けを考えます。
各地域の地域産業保健センターでは、50人未満の事業場を対象に、医師による面接指導や健康相談、健診結果についての意見聴取などを無料で行っています。利用は事前予約制で、回数には上限があります。東京都内の窓口は東京産業保健総合支援センターのページで確認できます。
利用できる支援の内容や日程、利用条件は、事業場の所在地を担当するセンターにあらかじめ確認します。継続的な面談、同じ産業医による対応、英語での面談などを希望する場合も、希望を伝えて対応の可否を確認するとよいでしょう。希望する支援を公的窓口だけで確保することが難しい場合は、民間の産業医への依頼や、公的支援との併用を検討できます。
よくある質問
Q. 産業医はいつまでに選任すればよいですか。
常時使用する労働者が50人以上となった日から14日以内に選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ選任報告を提出します。
Q. 今の産業医を変更することはできますか。
できます。契約上の解約予告期間を確認し、後任の選任と引き継ぎを調整します。産業医の選任義務がある事業場では、新しい産業医の選任報告に加え、2026年8月1日からは前任の産業医の辞任・解任・退任についても所轄の労働基準監督署への報告が必要になりました。後任の選任報告と同時に前任者の辞任等を報告した場合は、別途の報告は不要です。また、産業医が辞任または解任されたときは、その旨と理由を衛生委員会等に遅滞なく報告します。
Q. 本社と支店で別々に産業医が必要ですか。
選任義務は事業場ごとに判断するため、それぞれの事業場で常時50人以上であれば、それぞれに選任が必要です。同じ産業医が複数の事業場を担当することも可能です。50人未満の支店については、必要な場面でスポットで依頼する方法や、顧問として一定期間あるいは継続的な対応を依頼する方法もあります。
Q. 在宅勤務が中心でも産業医は必要ですか。
在宅勤務者も所属する事業場の人数に含めて数えるため、所属人数が常時50人以上であれば選任が必要です。在宅勤務者への面談は、一定の条件のもとでオンラインで実施できます。
Q. オンラインだけで産業医と契約できますか。
選任が必要な事業場では、定期の職場巡視を実地で行える体制が必要なため、オンライン対応だけでは産業医の業務を完結できません。面談や衛生委員会への出席など一部の業務は、条件を満たせばオンラインで実施できます。選任義務のない事業場でのスポットの面談や相談は、オンラインのみで対応できる場合があります。
参考資料
- 厚生労働省「労働安全衛生規則」(産業医の選任・報告、職場巡視) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」(令和8年4月28日 基発0428第4号、産業医の辞任等の報告) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00td0095&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日 基発0331第4号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5802&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日 厚生労働省告示第28号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75ac0780&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html
- 東京産業保健総合支援センター「地域産業保健センター」 https://www.tokyos.johas.go.jp/region
中央区・日本橋および都内で産業医を探す場合
中央総合産業医事務所は、中央区日本橋を拠点に、都内の事業場へ代表産業医が直接訪問しています。オンラインでの面談・相談は全国に対応しています。
この記事で挙げた7つの点について、当事務所の対応をお伝えします。お問い合わせから契約後の対応まで代表産業医が一貫して担当し、打ち合わせにも産業医本人が出席します。メンタルヘルス対応と、健診事後措置を含む身体面の対応のいずれについても、就業上の判断に必要な意見をお伝えし、必要に応じて主治医等と連携しながら対応しています。担当の継続や交代に関するご説明も、代表産業医が直接行います。面談では従業員の話を聞いたうえで、業務内容と職場の状況を踏まえた就業上の意見と、その理由を人事担当者の方にお伝えします。定期訪問に加え、オンラインでの面談や、日程・費用を事前にご相談のうえでの追加の訪問にも対応しています。外国籍の従業員への英語での面談、英語での意見書作成にも対応しています。契約に含まれる業務と追加対応の条件は、見積もりの段階で書面でお示しします。
実際の訪問先は、中央区・千代田区・港区・新宿区・渋谷区・台東区・江東区・品川区・文京区・豊島区など東京都内が中心です。区ごとのご案内は「対応エリア」を、外資系企業や外国籍従業員のいる企業向けのサービスは「外資系企業向け産業医サービス」をご覧ください。
事業場の所在地と人数、ご相談内容をお知らせいただければ、対応方法とあわせてご案内します。
