産業医との契約|契約形態・契約書で確認する項目・選任の手続き

産業医との契約書は、産業医に「何を、どこまで、どのような条件で」依頼するかを明確にするための書類です。選任義務のある事業場では、契約内容を整えたうえで産業医を選任し、所轄の労働基準監督署への報告など必要な手続きを進めます。

この記事では、依頼先が決まった後の段階として、契約形態の整理、契約・選任・報告の関係、契約書で確認したい項目、更新・解約の考え方をまとめます。依頼先の選び方や、契約前に確認しておきたい点は「産業医の探し方|契約後の行き違いを防ぐために、契約前に確認したい7つのこと」にまとめています。

常時50人未満の事業場については7章で整理しています。

※本記事は2026年9月時点の法令・公表資料に基づいています。

目次

1. 最初に整理したい3つのこと

契約書の条文を検討する前に、「どの事業場の産業医か」「誰と契約するか」「何を契約の範囲にするか」の3点を整理しておくと、その後の取り決めが進めやすくなります。

どの事業場の産業医か

産業医は、会社単位ではなく事業場ごとに選任します。同じ会社でも、本社と支店のそれぞれが常時50人以上の労働者を使用していれば、事業場ごとに選任が必要です。契約では、どの事業場を対象にするのかを明確にし、複数の事業場を依頼する場合はそれぞれを記載します。

誰と契約するか

産業医個人や、産業医が運営・所属する事務所・医療機関と契約する形と、産業医の紹介や支援を行う事業者を通じて契約する形があります。詳しくは次の章で整理します。

何を契約の範囲にするか

職場巡視や衛生委員会への出席のように定期的に行う業務と、長時間労働者の面接指導や職場復帰の支援のように、必要が生じたときに行う業務があります。どこまでを基本の契約に含め、どこからを個別の依頼とするかを産業医と相談して決めておくことが、契約書づくりの中心になります。

2. 産業医との契約形態

嘱託産業医との契約は一般に業務委託契約(準委任契約)で、契約の結び方には「直接契約」と「間接契約」があります。

雇用契約と業務委託契約

常時1,000人以上の労働者を使用する事業場や、一定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医を選任する必要があり、雇用契約で迎える形もあります。一方、月1回程度訪問する嘱託産業医とは、業務委託契約を結ぶのが一般的です。

日本医師会が2026年5月に公表した『嘱託産業医の心得と契約の手引き』(以下「手引き」)では、産業医の職務は事業者から一定の独立性が認められ、裁量によって健康管理を行うものであることから、嘱託産業医の契約は準委任契約の性質を持つと整理されています。準委任契約は、一定の作業や業務の遂行を目的とする契約です。

直接契約と間接契約

同じ手引きでは、嘱託産業医との契約を次の2つに分けて説明しています。

  • 直接契約:事業場と産業医が直接協議して業務内容や報酬を決め、両者の間で業務委託契約書を結ぶ形
  • 間接契約:産業医の紹介や業務支援を行う事業者が、事業場・産業医の双方とそれぞれ業務委託契約を結ぶ形

いずれも業務委託契約として整理されています。

実務上は、担当する産業医が運営・所属する産業医事務所や医療機関の法人と企業が、紹介事業者を介さずに契約する形もあります。

どの形でも産業医の職務は同じですが、契約の当事者と、条件を取り決める相手が異なります。また、契約の相手が法人であっても、事業場が産業医として選任するのは個人の医師です。契約の当事者と、実際に選任される産業医が誰であるかを確認しておきます。どの形で契約するかにかかわらず、次の章以降の項目を契約書で確認しておくことに変わりはありません。

3. 契約・選任・報告はそれぞれ確認する

契約の締結、事業者による選任、労働基準監督署への報告は、それぞれ別に確認しておく事項です。

手引きに掲載されている業務委託契約書の参考例(以下「参考契約書」)では、第1条で「事業者が産業医として選任し、産業医がこれを承諾する」という構成になっています。そのうえで、法令上の手続きとして次の2点があります。

  • 選任の期限:常時50人以上の労働者を使用するようになったときなど、産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任します(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)。
  • 選任の報告:選任したときは、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します(同条第2項)。報告は原則として電子申請で行います。

選任の報告に必要なものは次の3点です。

  • 産業医選任報告(e-Govの電子申請で作成・提出します)
  • 産業医の医師免許証のコピー
  • 産業医の資格証明書のコピー(産業医認定証など)

コピー2点は、通常は産業医に写しの提供を依頼します。

2026年8月1日からは、産業医の辞任・解任などがあった場合の報告も義務化されました。交代の際の手続きについては、「産業医の変更・交代の進め方」で解説しています。

常時50人未満の事業場には選任義務がないため、選任報告も必要ありません。この場合の契約は、面接指導などを必要なときに依頼する形や、相談できる体制を確保する形など、目的に合わせて内容を決めることになります。

4. 契約書で確認したい8項目

条文の数よりも、「業務の範囲」「料金に含まれる範囲」「情報の取扱い」「期間と終了」が具体的に書かれているかどうかが大切です。

1. 対象の事業場

事業場の名称・所在地・従業員数などを別表に記載し、どの事業場の産業医としての契約かを明確にします。本社以外の支店などで業務を依頼する場合は、報酬を含めて別に取り決めます。

2. 業務の範囲

日本医師会の参考契約書は、業務を2つに分けて書く形になっています。

  • 月額報酬に含める基本的な職務:職場巡視、衛生委員会への出席、健康診断結果に基づく就業上の措置に関する意見、労働基準監督署へ提出する報告書の確認、健康管理の企画への助言、診断書などの情報を踏まえた就業上の措置に関する意見、職業性疾病が疑われる事例への関与
  • 協議のうえ依頼する職務:長時間労働者の面接指導、ストレスチェック後の面接指導、職場復帰の支援を含む治療と就業の両立支援、保健指導・健康相談、その他の業務

自社で必要な業務をどちらに含めるべきか検討し、産業医と相談しておくと、料金の考え方も整理しやすくなります。

3. 訪問頻度と時間

訪問の頻度(月1回など)と、1回あたりの時間を記載します。

職場巡視は少なくとも毎月1回行うのが原則です。事業者から産業医へ、衛生管理者が行う週1回以上の巡視の結果や、衛生委員会等で定めた情報(長時間労働に該当する労働者とその労働時間数など)が毎月1回以上提供され、事業者の同意を得ている場合に限り、少なくとも2か月に1回とすることができます(労働安全衛生規則第15条)。この同意は、産業医の意見に基づいて衛生委員会等で調査審議した結果を踏まえて行うものとされています。手引きでも、条件を満たしていても安易に巡視を省略しないこと、2か月以上実施しない状態は法令違反となることが注意されています。

4. オンラインで行う業務の範囲

面談や衛生委員会への出席など、産業医の業務の一部はオンラインで行うことができます。法令に基づく長時間労働者や高ストレス者への面接指導をオンラインで行う場合は、厚生労働省の通知に示された留意事項を満たす必要があります。一方、職場巡視は産業医が実地で行う必要があります。どの業務をオンラインで行うかの目安を、契約時に相談しておくとよいでしょう。

5. 基本料金と追加費用

参考契約書では、基本的な職務を月額の報酬とし、協議のうえ依頼する職務は件数や時間に応じた報酬を別表で定める形になっています。毎月の業務時間と報酬をあらかじめ決め、その時間を超えた分を別に定める方法もあります。

交通費の扱いも取り決めておくとよいでしょう。参考契約書では、交通費は報酬とは分けて記載されています。

6. 会社から産業医への情報提供

事業者は、産業医が職務を行うために必要な情報を提供することが定められています(労働安全衛生規則第14条の2)。健康診断や面接指導の後に講じた措置の内容、時間外・休日労働が1か月80時間を超えた労働者の氏名とその時間などが含まれます。提供の時期も法令で定められており、たとえば講じた措置の内容は産業医の意見を聴いた後、遅滞なく提供します。

1か月45時間を超える時間外・休日労働は、一律に提供が義務づけられている80時間超の情報には該当しませんが、産業医が健康管理のために必要と認める業務に関する情報として、提供の対象になることがあります(同条第1項第3号)。実務では、法定の情報提供とは別に、衛生委員会で45時間超と80時間超の人数を報告し、産業医が全体の状況を確認している事業場もあります。この範囲の情報をどう共有するかも、あらかじめ決めておくとよいでしょう。

7. 健康情報の取扱いと秘密保持

産業医が面談などで得た健康情報を会社へ共有する際は、法令に基づき事業者が取り扱う情報などを除き、本人への説明と同意を基本とします。手引きでも、健康情報には事業者が直接扱えるものと本人の同意が必要なものがあり、健康情報を事業者に伝える場面でその仕分けや加工を適切に行うことが産業医に求められる、とされています。

会社へ伝える情報は、就業上必要な配慮や勤務上の制限など、健康管理や就業上の措置に必要な範囲に整理したものになります。契約書では、この考え方と秘密保持を定め、秘密保持は契約が終わった後も効力が続くようにしておきます。

健康情報の取扱いの考え方は「産業医の守秘義務と会社への情報共有」で、メンタル不調者への対応における情報共有の範囲は「メンタル不調者対応での産業医との連携」で解説しています。

8. 契約期間・解約・損害賠償

参考契約書では、有効期間を1年とし、期間満了の1か月前までにどちらからも申し出がなければ更新する形、解約する場合は期間満了の1か月前までに通知する形が例として示されています。これは参考例ですので、実際には双方で取り決めます。期間の途中で解約する場合の扱いも書いておくと安心です。

損害賠償の条項も確認しておきます。実際の契約書では、契約違反によって相手方に損害が生じた場合の賠償について、賠償の範囲(直接かつ通常の損害に限るか、特別損害を含めるか)や、上限額を定めることがあります。内容は契約ごとに異なるため、条項の有無と内容を確認します。

なお、参考契約書には、産業医が職務の遂行中や事業場への移動中に身体上の損害を受けた場合などの補償に関する条項も置かれています。手引きでは、この条項の扱いは企業とよく話し合って決めるものとされています。

5. 曖昧にしないほうがよいところ

契約後の行き違いは、条文が足りないことよりも、「その業務が基本料金に含まれるかどうか」が決まっていないことから起こることがあります。

契約内容のご相談をいただく際に、当事務所で確認している点の例です。

  • 「月1回・1時間」の中身:職場巡視・衛生委員会・面談・健康診断結果の確認を、すべてその時間内で行うのか。面談が多い月はどうするのか。
  • 訪問日以外の相談:電話などでの相談を基本料金に含めるのか。
  • 意見書やその他の文書:面接指導後の意見書は基本料金に含めるのか。主治医宛ての文書など、意見書以外の文書はどう扱うのか。
  • 予定の時間を超えた場合や、訪問日以外の面談:延長や追加の面談をどう取り扱い、料金をどうするのか。
  • 他の拠点の従業員:選任している事業場以外の従業員の面談を依頼する場合、契約の対象に含めるのか。
  • 臨時の対応:休職・復職の面談や長時間労働者の面接指導を、通常の訪問日以外に依頼できるか。その場合の日程調整の考え方。

いずれも、会社側・産業医側のどちらかの問題というよりは、あらかじめ決めておけば防げる行き違いです。契約書にすべてを書き込むのが難しいときは、覚書や別表などでの確認を検討するなど、後から見返せる形で残しておくとよいでしょう。

6. 更新・見直し・解約で確認すること

更新の時期は、契約書の内容と実際の業務がずれていないかを見直すよい機会になります。

見直しの際は、次のような変化がないかを確認します。

  • 従業員数の増減(常時50人以上となった、または50人未満となった、1,000人に近づいた、3,000人を超えて産業医が2人以上必要になったなど)
  • 有害業務に従事する人数の変化(常時500人以上で専属の産業医が必要)
  • 拠点の追加や移転
  • 面接指導や面談の件数の大幅な変化

契約を終了する場合は、契約書の解約予告の期間を確認し、後任の産業医の着任まで空白期間が生じないように進めます。選任義務のある事業場では、前任の産業医の辞任などから14日以内に後任を選任する必要があります。具体的な進め方は、「産業医の変更・交代の進め方」で解説しています。

7. 従業員50人未満の事業場の場合

常時50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、3章の選任と報告の手続きは不要です。契約は、法令上の義務を満たすためではなく、必要な対応を確保するために結びます。

定期訪問も必須ではありません。産業医が対応している範囲によりますが、長時間労働者の面接指導や意見書の作成を1件ずつ依頼する形、休職・復職の対応が続く期間だけ月額で伴走する形、定期訪問はせず相談できる体制を確保する形などがあり、必要な範囲を産業医と相談して契約の形を決めます。

契約書で確認する項目は4章と同じですが、重点が変わります。「月1回・1時間の中身」の代わりに、「1件の依頼に何が含まれるか」(面談、意見書、会社へのフィードバック、主治医宛ての文書など)と、その料金を決めておきます。オンラインか訪問のどちらを中心にするかなども、あらかじめ目安を相談しておくとよいでしょう。

従業員数が50人に近づいている場合は、選任義務が生じた日から14日以内に選任が必要になるため、選任型の契約へ切り替える時期と方法も相談しておきます。

当事務所の50人未満向けのプランは「事業内容(ご契約の形)」と「料金のご案内」をご覧ください。

8. よくある質問

産業医と直接契約することはできますか?

できます。産業医個人との業務委託契約のほか、担当する産業医が運営・所属する産業医事務所などと、紹介事業者を介さずに契約する形もあります。契約時には、契約の当事者と、実際に選任する産業医を明確にしておきます。

契約書の雛形はありますか?

日本医師会の『嘱託産業医の心得と契約の手引き』(2026年5月)に、業務委託契約書の参考例(参考契約書)と各条文の解説が掲載されています。自社の契約内容を検討する際の参考にできます。

オンラインだけで契約できますか?

選任義務のある事業場では、職場巡視など実地での確認が必要な業務があるため、すべてをオンラインで行うことはできません。面接指導や衛生委員会への出席など、オンラインで行える業務の範囲を取り決めたうえで、訪問と組み合わせる形になります。

従業員50人未満でも契約できますか?

できます。選任義務はありませんが、面接指導や休職・復職の対応など、必要な業務に絞って依頼することができます。当事務所のプランと料金は「料金のご案内」をご覧ください。詳しくは7章をご覧ください。

「産業医の派遣」という言い方を聞きますが、派遣契約になるのですか?

「産業医の派遣」という表現は、産業医を紹介・手配するサービスを指して使われることがあります。なお、産業医は、産業医としての業務において診断や治療、薬の処方などの診療行為を行わず、必要な場合は医療機関の受診を勧めます。産業医の紹介や支援を行う事業者を通じて契約する場合も、企業と事業者の間の契約は業務委託契約となることが多く、手引きでも、この形(間接契約)は業務委託契約として整理されています。当事務所では、紹介事業者を介さず、企業と当事務所の間で業務委託契約を結んでいます。

契約した後に業務を追加できますか?

記載のない業務についても双方の協議により追加することを相談できるよう、契約書を整えておくとよいでしょう。追加する際は、業務の内容と料金を覚書などの書面で確認しておくと、後から見返すことができます。

9. 当事務所のご契約について

中央総合産業医事務所では、紹介事業者を介さずに企業と当事務所が契約し、代表産業医が初回のご相談から契約後の対応まで直接担当しています。契約の範囲や料金に含まれる業務は、ご相談の段階で確認し、見積書や契約書草案などの書面で明確にしています。

ご契約までの流れは「ご契約の流れ」、プランの内容は「事業内容(ご契約の形)」、料金は「料金のご案内」をご覧ください。

参考資料

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