従業員が50人未満で産業医を選任していない会社でも、「今、この1件だけ産業医に面談してほしい」という場面は起こります。長時間労働が続いた従業員への面接指導、健康診断の結果が気になる従業員との面談、休職していた従業員の復職前の面談などです。
必要なときに1回ごとに産業医へ依頼する形は「スポット産業医面談」「スポット契約」などと呼ばれることが多く、当事務所では「スポット対応」と呼んでいます。この記事では、1回の依頼で何が行われるのか、依頼前に会社が整理しておくとよいこと、継続的な関わりが必要になる案件の考え方を整理します。
依頼先の探し方は産業医の探し方で、契約書の項目や選任の手続きは産業医との契約で扱っていますので、この記事では触れません。
1. 産業医のスポット対応とは何か
スポット対応とは、面談や意見書の作成など、産業医の業務を必要なときに1回ごとに依頼する形です。月額で継続する契約とは異なり、面談の件数や時間、実施方法を先に決めて利用します。
はじめに押さえておきたいのは、スポット対応は産業医の「選任」にはならないという点です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任して法令上の職務を行わせ、所轄の労働基準監督署へ選任報告を行う必要があります(労働安全衛生法13条、同施行令5条)。人数は会社全体ではなく事業場ごとに数えます。選任済みの事業場がスポット対応を使う場合は、担当の産業医を補う位置づけになります。
一方で、50人未満の事業場には選任義務がありませんが、医師による面接指導や意見聴取を求める法令上の仕組みがなくなるわけではありません。たとえば、一般の労働者では、1か月の時間外・休日労働が80時間を超え疲労の蓄積が認められる従業員から申出があった場合の医師による面接指導(同法66条の8。研究開発業務などには別の基準があります)や、健康診断で異常の所見があった従業員についての医師からの意見聴取(同法66条の4)は、事業場の規模にかかわらず事業者に求められています。「選任している産業医がいないので何もしない」のではなく、必要になったことを個別に産業医に依頼する形がスポット対応です。
50人未満の事業場では、地域産業保健センターで医師の面接指導や健康相談を利用できる場合もあります。事前予約制で回数に上限がある仕組みですので、外部の産業医に依頼する場合との使い分けは産業医の探し方の「50人未満の事業場の公的支援」で整理しています。
2. スポットで依頼されることの多い場面
スポットで依頼される内容は、大きく3つに分かれます。
1つ目は、長時間労働者や高ストレス者への面接指導です。法令の要件に該当し本人から申出があった場合、会社は医師による面接指導を実施する必要があります。産業医が面接指導を行い、その結果をもとに就業上の措置について意見を述べます。必要に応じて、職場環境の改善についても助言します。ストレスチェックで高ストレスと判定され、実施者が面接指導の必要を認めた従業員から申出があった場合の面接指導も、医師が行うものです(同法66条の10)。なお、ストレスチェックの実施は50人未満の事業場では2028年4月1日から義務になります。
2つ目は、健康診断後の対応です。事業者は、健康診断で異常の所見があった従業員について、必要な措置に関する医師の意見を聴き(同法66条の4)、その意見を踏まえて、必要に応じて労働時間の短縮や業務内容の変更などを行うことが求められています。こうした健診後の対応についても、健診結果の確認や就業上の措置に関する意見聴取をスポットで依頼できるサービスがあります。
健診結果や勤務情報の確認に加えて、従業員本人との面談が必要になる場合もあります。例えば労働時間や担当業務の制限を検討する場合など、書類だけでは判断に必要な情報が十分でないときには、産業医が本人の体調や治療の状況、実際の業務負担を確認したうえで意見をまとめます。この個別の面談は、健診結果の確認・意見聴取とは別料金になることがあるため、依頼時に対応範囲と費用を確認しておきましょう。
3つ目は、心身の不調がある従業員の就業に関する面談です。休職中の従業員が復職を希望しているケースなどで、主治医の診断書だけでなく産業医からも復職に関わる意見が求められる場合や、通院しながら勤務している従業員に就業上の配慮が必要かどうか会社として判断したい場合に依頼されます。産業医は本人と面談し、本人の健康状態に加えて、勤務時間や業務内容、職場の受け入れ体制を確認したうえで、就労可能な状態か、休養の継続が望ましいか、就業上の配慮などについて意見書を作成します。
こうした「今1件だけ」が起きるのは、産業医を選任していない50人未満の事業場が中心です。選任済みの事業場でも、担当の産業医とスケジュールや対応範囲が合わない場面などで、スポットの依頼を受けることがあります。
3. 1回の依頼に含まれるもの
面談のスポット対応は「面談1回と産業医意見書」が基本の単位です。面談の時間以外にも、次のような段取りが必要になります。
事前の資料確認と実施に関する連絡
面談の前に、会社から提示された資料(診断書、勤務状況、業務内容など)を必要に応じて参照し、面談で確認すべき点を整理しておきます。日程の調整や、オンラインの場合の接続方法といった実施に関する連絡も、この段階で行います。
面談
面談は基本的に30分程度で、オンラインまたは対面で行います。休職・復職面談や心身の不調がある従業員の就業に関する面談は、内容により30〜60分程度と長くなる場合があります。本人から現在の体調や治療の状況、勤務の状況を確認し、会社から受けた情報と合わせて、安全に働き続けられるかという就業の観点から状況を整理します。
産業医意見書の作成
面談後、就業上の措置について産業医としての意見をまとめた「産業医意見書」を作成し、会社に提出します。面接指導の場合は、この意見書が面接指導結果報告書を兼ねます。意見書には、面談で本人から聞いた内容のうち、就業上の判断に必要な範囲を記載します。
面談に必要な範囲での会社担当者とのやり取り
面談の前に会社の状況を確認するやり取りや、意見書の内容についての問い合わせへの回答は、面談に必要な範囲で対応します。
含まれないもの
1回の依頼に含まれないのは、2回目以降の面談、継続的なフォロー、複数の関係者との継続的な調整です。面談の結果、主治医への文書での照会や追加の資料確認が必要になり、1回の面談では意見をまとめきれないこともあります。その場合にどう進めるか(文書の作成を別途依頼するか、再面談にするか、継続の形に切り替えるか)は、依頼の段階で確認しておくと進めやすくなります。継続的な関わりが必要になった場合の考え方は5章で整理します。
4. 依頼前に会社が整理しておくこと
スポット対応では限られた面談の機会で状況を整理するため、依頼前の整理が面談の質を左右します。次の点を整理しておくと、面談を進めやすくなります。
面談の目的を決める
長時間労働者や高ストレス者の面接指導のように法令で内容が決まっているものは、基本的にはその種類を伝えれば足ります。一方で、例えば、休職中の従業員の面談では、当面は休養の予定だが本人の同意のもと面談で経過をフォローしておきたい場合もあるでしょう。また、復職可能の診断書が出ていて、復職できる状況なのか休養の継続が望ましいのかについて産業医の意見を確認したい場合もあります。このような目的の違いで、面談で確認するポイントと意見書の書き方が変わります。依頼の段階で迷う場合は、その旨を伝えていただければ、産業医の側から確認します。
本人への説明
産業医との面談は、本人が趣旨を理解して臨むことで意味のあるものになります。面談の目的、オンラインか対面かといった実施方法、産業医が会社に意見書を提出することを、あらかじめ本人に説明して確認しておきます。
用意する資料
診断書があればその写し、直近の勤務状況、担当業務の内容などを、依頼先の案内に沿って用意します。
産業医と会社の役割を共有しておく
産業医は、面談と資料をもとに就業上の意見を述べる立場です。復職の可否や就業上の措置を最終的に決定するのは、主治医の判断や産業医の意見を踏まえたうえでの会社です。主治医は主に治療の観点から、産業医は職場と業務内容も踏まえた就業の観点から、それぞれ意見を出す点も、依頼前に押さえておきたいところです。役割分担の詳細は産業医とはで整理しています。
5. 継続的な関わりが望ましいケース
スポット対応は、面談1回で意見をまとめられる依頼を前提にしています。依頼の時点で継続的な関わりが見込まれる案件は、はじめから継続の形で受ける方が進めやすくなります。
継続的な関わりが必要な案件
休職中から復職後まで継続的に関わる必要がある案件、面談が複数回になる見込みの案件は、1回ごとの依頼では途切れやすくなります。当事務所では、こうした案件を「ケース伴走プラン」として、案件の経過に応じて面談を追加できる形で受けています。
日頃から産業保健について相談できる体制を持っておきたい場合は「産業医相談プラン」、従業員数が50人に近づいていて産業医の選任を見据えている場合は「産業医選任プラン」の検討時期になります。選任の手続きは産業医との契約で整理しています。
スポットで面談した産業医がそのまま担当する形
スポットで面談をしたあと、継続的な関わりが必要と分かった場合、同じ産業医がそのまま担当できる形には利点があります。
本人は初対面の緊張なく話ができ、産業医の側は前回の面談時の様子と比べて経過を確認できます。面談の様子は記録に残しても完全には伝わりきらないため、同じ産業医が続けて面談することは、経過を見るうえで意味があります。会社の側も、経緯の説明や資料の送り直しが一からにならず、意見の組み立て方が一貫します。
当事務所では、スポット対応で面談した案件をケース伴走プランに切り替えて(または最初からケース伴走プランとして対応し)、代表産業医が引き続き担当する形をとっています。
6. 費用の考え方
スポット対応の料金は「面談1回と産業医意見書」で1つの料金になっている形が分かりやすく、当事務所でもこの形をとっています。依頼先によっては意見書が別料金になる場合もあるため、面談と意見書を合わせた金額を確認しておきましょう。
なお、当事務所の具体的な料金は料金のご案内に税別で掲載しています。継続的な関わりになる場合の月額プランの料金も同じページで確認できます。
7. よくある質問
スポット対応でも契約書は必要ですか
当事務所では、スポット対応は契約前にお送りするお見積書に記載した条件で承っています。複数回の面談や継続的な相談が見込まれる場合は、はじめからケース伴走プランとして契約書を交わす形をご案内しています。
すでに産業医を選任している会社でも、別の産業医にスポットで依頼できますか
できます。担当の産業医とスケジュールや対応範囲が合わない場合に、個別の面談をスポットで依頼する例があります。
主治医の診断書があれば、産業医の面談は不要ではありませんか
主治医は治療上の観点から意見を示す立場で、その診断は日常生活での回復状況を踏まえた判断であることが多く、職場で求められる業務まで行える状態かどうかは別に確認が必要になります。産業医は、本人の健康状態に加えて、業務内容や職場環境を踏まえて就業の観点から意見を述べます。復職の可否を含めて最終的に決定するのは会社であり、主治医の判断と産業医の意見は、そのための材料になります。
8. 当事務所のスポット対応について
当事務所は東京都中央区日本橋の産業医事務所で、スポット対応は代表産業医が直接担当します。都内を中心に対面での面談に伺い、オンラインは全国に対応しています。面談後に継続的な関わりが必要になった場合は、ケース伴走プランへの切り替えをご相談いただけます。
ご依頼の流れはご契約の流れ、料金は料金のご案内をご覧ください。従業員数、所在地、面談の目的をお知らせいただければ、お見積書をお送りします。
参考資料
- 労働安全衛生法 第13条(産業医等)、第66条の4(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)、第66条の8(面接指導等)、第66条の10(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
- 労働安全衛生法施行令 第5条(産業医を選任すべき事業場)
- 労働安全衛生規則 第13条(産業医の選任等)、第14条(産業医及び産業歯科医の職務等)、第52条の2(面接指導の対象となる労働者の要件等)
- 独立行政法人労働者健康安全機構「地域産業保健センター」の案内
執筆:株式会社中央総合産業医事務所 医師・産業医 細江 隼
